TAKERO'S REST ROOM



2月6日  

 朝8時過ぎの新宿発成田エクスプレスに乗る。出発前に片付けておかなければ ならないことがたまっていて、昨夜は40分しか寝ていない。ほとんどのメンバ ーが新宿に集合し、東京でYUKARIE、成田で増井が合流する。YUKAR IEは「地球の歩き方インド編」を片手に登場して、レナードに「『地球の歩き 方』を持って歩くのやめてくれる?」と注意される。しかし、レナードも含めて、 ほぼ全員がスーツケースに「地球の歩き方」を忍ばせていたのだが。
 今回のツアーは和太鼓のレナード衛藤氏のユニットによるもの。三井が金を出 して日本の文化を海外の都市で紹介するクローズアップジャパンという企画を毎 年やっているらしいのだが、今年はそれがニューデリーで開催され、レナード氏 が招かれたという次第。メンバーは、レナード衛藤(和太鼓)、勝井祐二(バイ オリン)、太田恵資(バイオリン)、平田直樹(トランペット)増井朗人(トロ ンボーン) 、石川“テノール” ヒロアキ(テナーサックス)、YUKARIE (テナーサックス)、関島岳郎(テューバ)の8人。 ホーンの5人はTHE T HRILLのメンバー。どこが日本の文化なのだろうとも思われるが、仕事でイ ンドに行けるならまぁいいや。インドは自分の中での行きたい国ランキングの3 0位くらいなので、こんなことでもなければ一生行かないだろう。
 THE THRILLというのはご存じの方も多いだろうが、15人編成のロ ック系ビッグバンドである。バンドというのは15人も人数がいると様々な経歴 や嗜好や価値感を持った人間が集まって来るもので、 それがTHE THRIL Lの特徴となっている。特に時間の分解能が異常に粗い人間が多いので、今回誰 も遅刻しなかったのは奇跡と言えるだろう。
 昼前に飛行機は成田を出発する。国際線はアルコール類が飲み放題になってい るので、機内ではその機能を存分に活用する。雲海の彼方に浮かぶヒマラヤが遠 ざかると、まもなく夕方のニューデリーに到着する。古びてがらんとした空港を 入国審査の方へ向かう。今回のメンバーでおそらく英会話の能力が一番劣ると思 われる私は、何をたずねられても「サイトシーイング」と「アバウトワンウイー ク」で乗り切る予定であった。普段「英語はいただきますもごちそうさまもない 無礼な言語」とか「itのような意味の無い主語を持つ非論理的言語」と馬鹿に している報いである。幸い何も会話が無かったが。
 空港からホテルへ貸し切りのバスで向かう。バスに乗る時にバスガイドの男が オレンジ色の花で作ったレイをかけてくれる。ハワイならムームーを着た女性が かけてくれるところだが。空港からの道は大渋滞だった。夜道にクラクションの 音が無数に響く。交通法規はあまり機能していないらしく、どこまでが路肩でど こまでが車線かわからない道を車が割り込みあいながら走っている。また超満員 の路線バスや乗用車の間を三輪のオートリキシャが走り回る。歩道では牛が寝そ べっている。暗くてよくわからないが、どうやら我々はインドに着いたらしい。
 今回我々に用意されたホテルは、マウリャ・シェラトンという五つ星ホテルだ った。確かにロビーはゴージャスで上品そうな人しかいないし、ツインながらも 部屋に入ればフルーツの入ったバスケットやケーキ(一人に4つも!)の入った 箱があったり、豊富な備品(例えば自分の名前の入った便せん)があったりする。 このホテルに滞在したことによってインドの通貨ルピーの価値が少しわかりにく くなったかもしれない。
 チェックイン後、成田でドルに替えた滞在費をフロントでルピーに両替する。 100ドル札が100ルピーの札束になって返って来る。さっそくルピーの威力 を試そうと、皆でホテルの中のインド料理屋に行く。ビールを飲んでチキンカレ ーとナンを食べる。ホテルの中だけあってさすがに洗練された味のカレーで、鳥 肉自体がかなりうまい。ナンも今までに食べたナンで一番うまかった。しかし食 後にチャイを頼むと、怪訝そうな顔をしてチャイは置いていないと言う。どうや らチャイは庶民的な飲み物で、高級店では置いていないらしい。値段も高級で、 会計が一人850ルピーになりびっくりする。たしか「地球の歩き方」には、1 ルピーを100円から200円の間に思って大切に使えと書いてあったはず。そ れはおおげさとしても、現在のレートは1ルピー=3.6円だから、850ルピ ーは日本のインドカレー屋で食べるより高いことになる。我々はルピーの力に幻 想を抱いていたのだろうか。その後ルピーの価値は、街になじむにしたがって解 明されてゆく。                            

続く

●翌日の日記にすすむ




前のページに戻る最初のページに戻る