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昨日、かわせみ座「残照」の公演がすべて終了(栗コーダー関連から観に来てくれた方々もいらしたようで、嬉しいかぎり。ありがとうございました。もちろんそれ以外の方々も)。今回の仕事は初めてづくしでそれなりに苦労もしたのだけれど、いろいろな面で大きな収穫があったなあ。すぐ忘れちゃうので、覚え書き程度にここにメモしておかないと。
まず同じ演目が7回もある、ということで、普段味わえない何かが味わえる。例えば今までリハーサルで気にもせずに演奏できていた曲のある部分が本番になって急に出来なくなる。なんてことがあって、それは何が原因かを7回かけて探れたりするわけです。
思いつくままに書くと、譜面台の角度(特に重要。ナナメに見るとリハでは大丈夫でも本番でミスの確率が上がる)、高さ、譜面への書き込みをどの筆記用具で行なったか、ピアニカ本体と自分の耳との距離(離れると強く吹いてしまう。低域で強く吹き過ぎると音が出なくなる。顔を楽器に近づけると少しはマシ)、余った息の逃がし方(今回4回目くらいでピアニシモが吹けるようになった)、足下のエフェクトのペダルの角度とマイクとの位置関係(何故かリハではどんな角度でも大丈夫なのだ。照明の明るさとも関係があることもわかった)、自信のないフレーズでも思い切ってやってしまう気合いのもち方、本番前のステージの暗さ、その中で青い電球のみを見ながら2〜3分待つこと、その後演奏中に本格的な照明が自分たちに当たった時の動機の高まりの押さえ方(強い照明が原因で演奏がおぼつかなくなくなることって、案外あるのだなあ…)、首や肩の血行のぐあい、呼吸のととのえ方、本番前に運指練習(普段してないものだから急にやってもどうかなあ…とか)をどれくらいしておくか、食事の質や量それとタイミング(空腹と時の方が集中力が続くようだ。いまごろわかるか?)、とか、きりがないくらいいろんな事が、ほんのちょっと手がかり程度にだけど見えた気がする。普段からライブ回数の多い根っからのミュージシャンの人はこんなようなことを長い間のライブ経験から、自然に体得しているのだろうなあ。なんて思ったり。
で今回の演奏メンバー。3人以内でお願いします。ということで、最初の打ち合わせの時の思いつきで、曲を作る前、どころか台本もこまかく決まっていないうちにイトケンと斉藤君に決めてしまった。今思えば、音符に書かない部分を二人のセンスで埋めてもらおうと思ったんだな。3人だといつでも何かが(例えばベースとか)足りなくて、もうひとりいれば格段にやり安かった筈で、楽団のみんなには苦労かけました。特に斉藤君には負担が大きかったと思う(すまん斉藤君。文句も言わずよくやってくれてありがとう)。僕も含めて舞台音楽の初心者だけでやったわけだけど、結果として予想以上ににうまくいった。やった。
曲作りはけっこう苦労した。セリフがないので、音楽でいろいろなことを説明する必要があったので、ライトモテチーフ的にいくつかのことがらや登場人物にたいして、フレーズを割り当ててみたり。ちょっとベタかな、と思いつつ、これは問題ないこと。
ある日の通し稽古のビデオを見ながら曲作りをするのだが、ふだん映像がらみの仕事が多いせいか、入り込むとその時の映像にぴったりに作ってしまってこれがいけなかった。収録した時からは時間が経っていて気分や動きが変化(進化)している上に、ビデオじゃないんだから1つのシーンが毎回同じ秒数になんてなるわけがない。最初の音楽入り稽古の時に数曲やってみたのだが、動きと全然合わなくて、そりゃそうだよなと、大きく反省。ゆるく合わせられるようなシステム開発とそれに見合った曲の作り方に変更(リハーサル後の飲み会とも言える音楽打ち合わせが大きく役立ちました)。
曲は、構成の決まっているもの(演者が音に合わせる)と、大まかにしか決まっていないもの(演者を見て音を合わせていく)の二種類で、特に後者はパフォーマンスに合わせて毎回ちがった演奏、楽曲になっていくのが自分でも興味深かった。
ただ、きっかけ合わせは意外に難しくて、じっさいの舞台でやってみないと、照明のぐあいも自分の位置からの人形の見え方もわからないものだから、初日から3日目くらいまでは、脳内の、普段と違う部分がものすごく緊張した(他の二人もそうだった。ここか!と思って楽器構えて、あ、まだだったとそのまま5分とか…笑)。一度全体を把握してしまえば、あとはけっこう楽しい作業だった。ピタッとはまった時のうれしさは何とも言い様がない。
それと楽器編成。生音中心で行けると思っていたのだが、いざやってみると、人力で動かすそのからくりも見えている人形のうごきに対してのんきな笛や太鼓の音じゃあ、あんまりストレートで、やや暗めのトーンのこの話には全然合わなくて、ここでも作戦を変えないといけなかった。さいわいメンバー二人ともたまたまつまみ類(シンセやエフェクト)が大好きなタイプの人間だったので、これはほんとうに助かった。まずしなきゃいけないことは、音による非日常的な空間の設定だったのだな。
そうしていくつかの曲は、静かなノイズと身近にある生楽器という二層構造のものになっていった。2台のループサンプラーとCDJはこの間をとりもつ重要なアイテムだった。終わって考えると、これって操られる人形と人形師がそのまま舞台に上がり同列に演じるというこの話そのものと相似形だったのか、みたいなこじつけもできてちょっと楽しくなった。
とりあえず音のことだけ書いたけど、他にもいろいろあって、また書いておきたいのだけど、時間は早くすぎていくから無理かも知れないなあ。
同じ場所に一週間通う、っていうことはふだんはまず、ないわけで、それもなんだか学校に行くみたいで楽しかった。会場はあまり人気(ひとけ)のない人工的な場所にあったのだけど(休日の夕方なんて近代的な空間にある殆どの店は閉まっていてさー、冷たいビル風が吹き抜けてそりゃあもう廃虚、とか死の町に近いイメージですよ…笑)、それでも天気のよい昼下がりはとてもすてきで、昼ごろ楽屋に入って一服してから階下のコーヒーショップで本日のコーヒーなんか買って、今日のは酸っぱくていまいちだ、とか言いながら、そろそろ音出ししますか、なんて調子の毎日で、なんか良かったなあ。呼んでくれたかわせみ座のみなさんと白玉さん、お世話になったスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。