栗コーダー本とは何かを年表で考える
  〜完結編〜「ある晴れた午後」
TEXT BY 関島岳郎

 「関島さん、関島さん。」
  あれ、その声は川口君‥‥。栗コーダーカルテットは解散したんじゃなかった
か。  
 「竹智さん以外はみんなそろいましたよ。」
 そうだ、栗コーダー本とは何かを考える対談をやるために皆を集めたのだった。
今日は5月5日、関町のガスト。 集合時間の15:00より早く来てしまったため、ど
うやら私は居眠りしていたらしい。それにしても恐ろしい夢だった。メンバーの
間では、栗コーダー本の製作に取りかかってからどうも栗コーダーカルテットの
運気が落ちているという話をしていたが、やはり早く完成させないことには悪夢
が現実になることもあるかもしれない。
 「竹智遅いなあ、仕事が詰まっていて、こんなところに来ている場合じゃない
んだろうけど。」
 すでに5月26日のライブに間に合わないことも確定している。 他の仕事も詰ま
っている竹智さんを急かさなければならないのはつらいところだが、今日は現時
点での進行状況も確認しておきたい。
 「お待たせしました。」
 竹智さんがやってきた。表情が意外と明るい。
 「今日は座談会の前に見てもらいたいものがあるんですけどね。」
 竹智さんが、かばんの中から黄色い物体を取り出す。
 「おおっ。」
 「これは。」
 「出来たんだ。」
 「うちのプリンターで刷り出した見本ですけど、こんな風になるということで。
5セットありますんで、各自お持ちかえり頂いてチェックして下さい。」
 「ということは、5月26日のライブには?」
 「楽勝で間に合いますね。」
 「やったー。竹智、ありがとう。」
 にこにことページをめくり、その内容にいちいち感嘆の声をあげる栗コーダー
カルテットのメンバー。塚田さんと竹智さんもうれしそうに、製本のスケジュー
ルを確認している。そうだ、栗コーダーカルテットはこうでなくちゃ。これでよ
うやく次のアルバムの録音にも取りかかれる。
 「青山のマンダラは延期ライブをやったところですからね、雪辱が果たせます
ね。」
 私の一言に皆がけげんな顔をする。
 「え、関島さん、5月26日はStar Pine's Cafeでしょう。」
 「あれ、確か青山のマンダラで東京ザビヌルバッハと対バンじゃ‥‥。」
 「いやだなあ、関島さん。 それは去年の5月26日ですよ。今度の5月26日は、"
CRAFTMAN'S GIG IN SPRING 2001"で、大友さんの新バンドと対バンじゃない
ですか。」
 私は慌てて愛用のHP200LXで今日の日付を確認した。2001 年5月5日と表示され
ている。薄れていく意識の中で竹智さんの声がうつろに響いていた。
 「いやあ、21ヶ月もかかっちゃいましたけどね、ハハハハハハ‥‥」



 「関島さん、関島さん。」
 あれ、その声は川口君‥‥。
 「みんなそろってますよ。」
 「お待たせしてすみません。」
 そうだ、栗コーダー本とは何かを考える対談をやるために皆を集めたのだった。
今日は5月5日、関町のガスト。 集合時間の15:00より早く来てしまったため、ど
うやら私は居眠りしていたらしい。それにしても恐ろしい夢だった。メンバーの
間では、栗コーダー本の製作に取りかかってからどうも栗コーダーカルテットの
運気が落ちているという話をしていたが、やはり早く完成させないことには悪夢
が現実になることもあるかもしれない。
 「竹智さんはまだ?」
 「関島さん、今日は竹智は呼んでいないですよ。あれ、そんな話したっけ。」
 「あ、関島さん、こちらが塚田さんです。」
 「塚田です。よろしくお願いします。」
 私は慌てて愛用のHP200LXで今日の日付を確認した。1999年6月21日と表示され
ている。栗コーダー本の最初の打ち合せの日だ。よくよくあたりを見てみると、
ここは関町のガストではなく、渋谷のランブルではないか。
 「それで、ツアーパンフレットですけど、大体こんな体裁で、ページ数は60
ページくらいで‥‥」
 「わあー、すげえ、60ページも何載せるのかな。」
 「いや、60ページくらいすぐですよ。」
 「ちょっと待った!」
 自分でも驚くほど大きな声を出してしまった。他の4人も驚いて私を見る。
 「無理無理、絶対やめたほうがいい。それだけは手を出しちゃいけない。大体
今から始めて8月8日に間に合うわけないし、コンサートの準備と並行してや
るのはすごく大変だし、作り始めたら60ページで足りるわけないし‥‥」
 思いつく限りの理由をならべて、私は他のメンバーを延々と説得し続けた。
                                  
おわり



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